千本ゑんま堂から千本通を北に、千本鞍馬口のバス停すぐの東側に、「逆さ川地蔵」とも「歯形地蔵」とも呼ばれる、小さな祠がある。 |
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この地蔵は嫉妬に狂った妻が、相合傘で歩く夫を見て、逃げた夫を追って妻が夫の肩に噛み付いたところ、 |
それは地蔵尊であったといい、女の嫉妬の業の深さを表わす伝えとして今に残っているのである。 |
説明文によれば、 |
『その昔、鞍馬口通には小川が流れていた。金閣寺北の鏡石あたりから折れた紙屋川の支流で、上にのぼって流れる、いわゆる「逆さ川」だった。 |
そして、川にはちょうど千本通をまたいで小さな橋がかかり、たもとに一体のお地蔵さんがあった。「逆さ川」の下におられるので、人々は「逆さ川地蔵」と呼んで親しんだ。 |
そんなころのこと、近くに夫婦が住んでいた。夫は大工で、仕事一筋のマジメ人間。 |
近所の井戸端会議でも評判で、奥さん連中も口々にほめそやした。妻も自分には出来すぎた夫と思っていたけれど、あまり評判がよすぎるので気が気ではない。 |
「ひょっとして浮気でもしたら」「いやいや、他の女性にとられるかも・・・」 |
心配がこうじて、夫の帰宅が少しでもおそいと、出先まで迎えに出るほどの気の使いよう。 |
ある日、夕方から、あいにく空は一天かき曇って、しのつく雨。 |
「さぞ、夫が困っているのでは・・・」妻が迎えに出ると、いましも夫が、美しい娘と相合いガサで歩いてくるではないか。 |
「人の気も知らないで、いまいましい!」逆上した妻はつかみかかった。驚いたのは亭主。 |
そのままかけ出し、逆さ川の橋の下に逃げ込むと、お地蔵さんの陰にかくれた。 |
追いついた妻は、言葉より先にやにわに肩へガブリとかみついた。「アッ!」 |
よほど気が転倒していたのか、妻が夫と思っていたのは実はお地蔵さん。そのうえ、かみついた歯はお地蔵さんの肩にくい込み、そのまま離れない。 |
たまたま通りかかった老僧がいて、「これはこれは、お気の毒じゃ」と経文を読んで助けた。が、妻はそのまま息がたえてしまった。 |
以来だれいうとなく、「逆さ川地蔵」を「歯形地蔵」と呼んで、女のしっとをいましめたとか。 |
また夫の身代りになったというので、歯痛治療の信仰もいつしか生まれた。』 |
出典:【歯形地蔵の説明文】より |
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