『万葉集』（奈良時代末期に成立した日本最古の和歌集）

万葉まほろば線は「高田」を出ると、「金橋」次が「畝傍」である。

畝傍駅から右（南）に「畝傍山」、前方右（南東）に「天香久山」が、前方左（北東）に「耳成山」が見えてくる。

この三つの山が、万葉集に歌われている「大和三山」である。

大和三山がある奈良盆地の南には、持統天皇８年（６９４）に、持統天皇により飛鳥京から遷都され、和銅３年（７１０）に、元明天皇が平城京に都を移すまでの間の都「藤原京」があった処である。

当初、藤原京は大和三山（北に耳成山、西に畝傍山、東に天香久山）の内側にあったとされ、東西２Km、南北３Kmの１２条８坊からなる条坊制の都だと考えられたいたのだが、東西の京極大路の発見により、その大きさは５.３km（10里）四方、２５km2はあり、平安京の２３km2や平城京の２４km2をもしのぎ、古代最大の都ということが判明した。

万葉集では大和三山を詠んだ、中大兄皇子の歌（巻１－１３）

「香具山は　畝傍を愛しと　耳成と　相争ひき　神代より　かくにあるらし　古も　しかにあれこそ　うつせみも　妻を争ふらしき」

反歌（巻１－１４）

「香具山と　耳成山と　闘ひし時　立ちて見に来し　印南国原」

との歌がある。

余談だが、鉄道唱歌第５集３７番には、

「桜井いでてわが汽車は　畝傍　耳無　香久山の　鼎（かなえ）に似たる三山（みつやま）を　前後に見つゝ今ぞゆく」と桜井線の車窓から見える大和三山が歌われている。

　　　　　　　　　畝傍山　　　　　　　　　　　　　　　　　　畝傍駅

「畝傍」の駅を出て車窓のはるか後ろに見えたのが、どうやら「畝傍山」のようであった。

電車は一瞬のうちに「畝傍山」を置き去りにして、走り去っていた。

畝傍山は標高が１９８.８ｍで、大和三山では一番高い山である。

畝傍の駅から南に直線距離で１.８Kmの距離にあり、頂上あたりの地質や釣鐘型の山容から、古代は火山だった可能性があるという。

古代には山上に多くの神社があったといわれ、山頂には畝傍山口神社殿跡が残っている。

明治になり、神武天皇の畝傍橿原宮があったとされる畝傍山の麓に橿原神宮を建立する。

そのために畝傍駅が橿原神宮や神武天皇凌（畝傍山の北東）の最寄り駅となり、皇族のために貴賓室が設けられ、昭和１５年（１９４０）には昭和天皇が、昭和３４年（１９５９）には皇太子夫妻（現、上皇と上皇后）が利用されている。

現在は一般公開はなされていないが、不定期に公開されているようである。

　　　　　　　　　天香久山　　　　　　　　　　　　　　　　　香久山駅

畝傍駅の先に見えたのがどうやら「天香具山」のようであった。

持統天皇の「春過ぎて夏来るらし白妙の・・・」と詠んだ歌など思い起こす間もなく、電車は「香具山」の駅へとすべり込んで行く。

天香久山の標高は１５２.４ｍで２番目の高さの山であり、他の山が単独峰なのに対し、この山は多武峰から続く竜門山地の端にあたる。

畝傍駅からは南東に２.６Ｋｍ、香久山の駅からは南南西に１.７Ｋｍの位置にあり、藤原京の東にあり太陽信仰から、三山の中で最も神聖視された山である。

万葉集には天香久山を詠んだ歌が９首あり、主なものとして、

舒明（じょめい）天皇の歌（巻１－２）

「大和には　群山あれど　とりよろふ　天の香具山　登り立ち　国見をすれば　国原は　煙り立ち立つ　海原は　かまめ立ち立つ　うまし国ぞ　あきづ島　大和の国は」

持統天皇の歌（巻１－２８）

「春過ぎて　夏来たるらし　白たへの　衣干したり　天香具山」

鴨足人(かものきみたるひと)の歌（巻３－２５９）

「いつの間も　神さびけるか　香久山の　桙杉の本(もと)に　苔生(む)すまでに」

大伴旅人（巻３－３３４）

「わすれ草　わが紐に付く　香具山の　故（ふ）りにし里を　忘れむがため」

作者不詳の歌（巻７－１０９６）

「いにしへの　事は知らぬを　われ見ても　久しくなりぬ　天の香具山」

柿本人麻呂の歌

「久方の　天の香具山　このゆふべ　霞たなびく　春立つらしも」（巻１０－１８１２）

「香久山に　雲居たなびき　おほほしく　相見し子らを　後恋ひむかも」（巻１１－２４４９）

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　耳成山

ところで「耳成山」はというと、大和三山の位置関係はほぼ三角形の頂点の位置にあるのだが、ということは「耳成山」は進行方向の左側に位置することになり、そのことをすっかり忘れていて「耳成山」はその影すら見ることが出来なかったのである。

耳成山の標高は１３９.６ｍで、山の南には耳成山公園が整備されている。

山裾がなく丸い形をしていることから耳成とよばれたというのだが・・・

畝傍駅からは北東に１.２Ｋｍ、香久山の駅からは北西に１.８Ｋｍの位置にあり、三山の一番北にある山である。

桜井線には耳成という駅はないのだが、近鉄電車大阪線に耳成駅があり、この駅が一番近い駅となる。

万葉集には、

作者不詳の歌（巻１６－３７８８）

「耳成の　池し恨めし　吾妹子(わぎもこ)が　来つつ潜(かづ)かば　水は涸れなむ」

「香具山」を出ると「桜井」「三輪」と電車は進んで行く。