市バスを「馬町」で降りて渋谷通を西に3分ほど歩くと、赤いレンガ造りの建物があり、そこが日本で最初に紙巻タバコが作られた工場跡である。
ここが日本の煙草王といわれる、村井吉兵衛が最書に「サンライズ」と名付けられた、両切りタバコを作った所である。
それまでは、キザミ煙草で煙管(きせる)に煙草をつめて、一口二口吸って、詰め替えて吸うというのを二三回繰り返して吸っていた。
「みのり」とか「桔梗」というキザミ煙草が売られていたが、何時のまにか目にしなくなってしまった。
村井吉兵衛は、幕末の文久4年(1864)に京都の煙草商の家に生まれ、9才で叔父の家に養子に出され、明治11年(1878)14才で家督を継ぐことになる。
行商で煙草を売り。その金で紙巻煙草の製造を始め、明治23年(1890)、日本初の両切紙巻煙草を製造し「サンライス」と名付けて販売する。
その製造を担ったのが機械館という赤レンガ造りの工場であった。
明治27年(1894)に「ヒーロー」という煙草が販売され、その生産量は日本一であった。
ところが明治37年(1904)に日露戦争が起こると戦費調達の為に、煙草は国の専売となるのである。
以来、日本専売公社として、昭和60年(1985)に民営化されるまで続くことになる。
石碑の横にある碑文には、
『明治23年村井吉兵衛わが国始めて両切紙巻タバコを製造、同32年この地に米国タバコ会社と合同して村井兄弟商会を設立し、その名声は世界のタバコ商として知られる。
明治37年煙草専売法の実施により国営となり、商会の建物は専売局専売公社の京都工場として使用され村井の技術が大いに役立つ。
(大渓元千代著「たばこ王村井吉兵衛」に拠る)
その後、建物は倉庫等に使用されたが廃屋同然の状態で放置された。
昭和22年富田淺雄社団法人関西厚生協会を設立し、この地と建物の払い下げを受けて、その維持保存につとめ今日に至る。
昭和55年3月吉日 社団法人関西厚生協会』
出典:【石碑横の碑文】より
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ここを訪ねたのは平成19年(2007)で、その時には関西テーラーの看板が掛かっていたが、建築当時の赤レンガの建物が残っていたのだが・・・。
今はと思いグーグル・ストリートビューで調べてみたが、それらしき建物はなく、確か東山税務署の横だったのを思い出し、平成19年に見た同じ場所からの景色を比べてみると、赤レンガ造りの建物はなく、そこには特別養護老人ホーム「修道洛東園」が建っていた。
調べると平成22年(2010)に建て替えられ、平成27年(2015)から、老人ホームになったという。
建物の前にあった「たばこ製造工場発祥の地」の石碑と碑文は残っているようだが、時の移り変わりは止めようもなく、また一つ明治の遺産がなくなってしまったのである。
円山公園の一角に建つ建物が、村井吉兵衛の別荘兼迎賓館だったところである。
長楽館は、明治42年(1908)に竣工し、アメリカ人のJ・M・ガーディナーが設計し、清水満乃助の施工になるものである。
長楽館の名は、伊藤博文が宿泊したさいに名付けたと云われる。正門を入ると、正面に本館、左手に別館が建っている。
本館は、3階建ての建物で、中央に広間を設け、そのまわりに各室を配置するという形式である。1階は、客間、球戯室、書斎、サンルーム、食堂などが、2階は喫煙室、貴婦人室、客室などが、3階は和室となっている。また建築当初の家具も残っていて、明治時代後期の和洋折衷の建物の雰囲気をよく残している。
現在は喫茶店、レストランとして使用されている。
駒札には、
『長楽館は。「たばこ王」と称された明治時代の実業家村井吉兵衛が円山公園の一角に建てた別荘で、その名称は伊藤博文が宿泊した折に付けたものである。
小路は、アメリカ人技師T.M.ガーディナーぼ設計・監督、清水満之助の施工により、明治42年(1908)6月に竣工した。
また室内装飾は、東京の杉田商店、京都の河瀬商店が分担し、壁画は高木誠一の筆になると伝える。
建物は、1階・2階ともに中央の広間を中心としてそのまわりに各室が配され、1階には客間、球戯室(半地下)、書斎、サンルームと食堂が、また2階には喫煙室(中2階)、貴婦人室、美術室、客室3室などが置かれている。
なかでも1階客間は、暖炉まわりや壁パネル、天井に植物文様のレリーフを飾るなど、ロココ様式を基調とし、最も華麗で見ごたえのある部屋となっている。
一方3階は和室となり、とくに東北の2室は書院造風で、その豪華なつくりと斬新な座敷飾りはみごとである。
建築当初の家具が残っている点も注目され、ロココ様式をはじめそれぞれ部屋に合った様式の家具が配置されていた。
ロンドンのメープル(MAPLE)製など、大半が高級な輸入品で、意匠的にも優れている。
長楽館は、内部の凝った意匠にみるべきところがあり、規模も大きく、明治時代後期における和洋折衷の住宅建築の代表例として価値が高く、家具30点をめて、昭和61年6月2日、京都市指定有形文化財に指定された。』
出典:【長楽館の駒札】より
たばこ製造工場発祥の地(京都市東山区渋谷通本町東入三丁目上新シ町358)
京都駅から
▼「D2」乗り場か88・206系統で『馬町』下車(所要13分)
「馬町」から、渋谷通を西に徒歩3分
長楽館(京都市東山区八坂鳥居前東入円山町)
京都駅から
▼「D2」乗り場か88・206系統で『祇園』下車(所要21分)
「祇園」から、八坂神社を抜け、円山公園に徒歩8分
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