疎水公園の中に、工部大学(現東大)を出て疏水工事を担当した、田邉朔郎博士の銅像が建っている。
工部大学を出たての若い人材を、この一大プロジェクトに起用したのは、その当時の大学出はエリートであり又、その期待に応えられるだけの力を持っていたのである。
少し長くなるが、田邊朔郎紀功碑の碑文にその業績が紹介されているので掲載する。
『琵琶湖の水を引きて水利を京都に興さんとするは、八百餘年来屡(たびたび)識者の唱へし所なれども、能く起ちて之に当る者なかりき。
明治二年、車駕東幸(しゃがとうこう:東京遷都)し一千年、帝都の地、日に衰弊せんとす事、天聴に達し畏くも、内帑(ないど:皇室のお金)の金を賜ひて産業振興の資(かて)を佐(たす)けらる京都府知事北垣国道君、聖旨に感激し琵琶湖疏水工事を断行し府民をして永く、皇沢に浴せしめんと欲す。
時に田辺朔郎君工部大学生たり夙(つと)に、琵琶湖疏水の京都に利あるを念ひ、其の地を兆さして審に之を論ぜり。
大学校長大鳥圭介君素より、君が才の用ふべきを知り之を知事に薦む。
知事、君の設計を聴きて大に喜び十六年君が二十三歳にして大学を卒業するに及び、此の大工事を挙げて君に嘱せり。
当時我が国土木の術未(いまだ)進まず
工事の稍大なる者は概(おおむね)之を外人に託するを常とせしかば、君の才を知らずして、その前途を危み此の挙を難ずる者尠(すくな)からず。
されど知事は群議を却け君を信じて疑わず、君亦慨然(がいぜん:気力を湧きたたせる)として、之に任ぜり。
乃(すなわ)ち水路を幹枝二線に分ち、湖口三保崎ヨリ藤尾山科蹴上を経て夷川に至り堀川に合する者を幹線とし、専之(もっぱらこれ)を舟運に便し、蹴上より若王子白川を経て堀川に合する者を枝線とし、之を潅漑及工業に供する計画を定む。
斯くて十八年六月三日を以て、工を起すや君日夜心血を傾注して之に当り、要する所の材料及機械の類、或は遠く外国に求め或は自考案製作し、又部下を教習指導して其の技に熟せしむる等、百方画策孜孜(しし:一生懸命励む)として倦まず(うまず:飽きたりせず)工程愈(いよいよ)進みて苦慮益加る。
就中、長等山隧道は長さ一千三百四十間(2.43km)国中に比なく、蹴上より南禅寺前に至る傾斜鉄道は、長さ三百二十間(580m)世界未曽有とす。
又、南禅寺前より鴨川に至る間には、閘門を設け落差を調節して舟運に便せり。
此の工、未半(みはん:半ば(なかば))ならざるに、米国に於て始めて水力発電所を設けたるを聞き、二十一年、君米国に赴きて之を調査し、帰りて発電所を蹴上に創設す。
是、我が国に於ける水力発電装置の嚆矢(こうし:物事のはじめ)にして、世界最大と称せらる。
経営の苦心思ふべし、二十三年四月功竣(おわ)る。起工以来実に一千七百七十二日を閲(へ)せり。
之を第一疏水とす。同月九日、竣功式を挙行す。
天皇・皇后親臨し優詔(ゆうしょう:ありがたい言葉)を賜ひて偉功を褒せらる。
其の後、君は帝国大学教授に任ぜられて東京に赴き工学博士を授けられ、次いで北海道庁鉄道部長より京都帝国大学教授に転じ、現に其の任にあり、夷川より深草を経て伏見に至る運河は、第一疏水の延長工事にして、君が其の設計及び監督の大綱に参与したるは、東京在任中の事に属す。
四十一年京都市再君に嘱して、第二疎水及び上水道街路改修の三大工事を行う乃ち、第一疏水に沿ひて隧道を設け水を蹴上に会せしめ、之に依りて発電力を増大し改修街路上に電車を運転し、上水道の設備を完成し且(かつ)蹴上以下の既設水路を拡張し、大に舟運の便加ふるに至れり。
顧ふに琵琶湖疏水は我が国空前の大工事にして、其の施設は東西諸国に率先せり学識該博(がいはく:学識の広いこと)徳望(とくぼう:徳が高く尊敬信頼されること)衆を率ヰ(ひきい)至誠堅忍経営宜(よろ)しきを得ること君が如くなるに非ざるよりは、焉(いずくん)ぞ此の功を収めん。
英米諸国之を聞き、君に功碑を贈りて其の功を称せり。君が京都府に於ける功績は之に止まらず。
京都より宮津に至る道路を改修し、京都舞鶴間の鉄道線路を選定するが如き。皆其の宜しきを得ざるはなし。
嗚呼(ああ)偉なるかな、京都の殷盛(いんせい:たいへんさかんなこと)は昔日に陵駕し疏水の偉績は永く万人の頼る所たり。
疏水の鴨川に注ぐ処橋を架して田邊橋と曰(ゆ)ふは、未(いまだ)君の名を著すに足らず。大正十年君寿還暦に当る乃ち碑を建て事を記して、其の功を百世に伝ふ。実に我が府民の志なり』
出典:【田邊朔郎紀功碑の碑文】より
と大正12年2月、京都府知事池松時和の文、山本寛山筆になり、京都府吉村茂右衛門が刻んだ石碑が、田邊朔郎の銅像の南側に建っている。
田邊朔朗の像(京都市左京区南禅寺福地町 疏水公園)
京都駅から
▼地下鉄烏丸線で『烏丸御池』(所要5分)、東西線に乗換『蹴上』下車(所要7分)
「蹴上」1番出口から、徒歩3分
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