宇治橋から上流に歩き宇治神社の赤い鳥居が見えると、宇治川の右岸から橘島に渡る「朝霧橋」がある。

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その朝霧橋を渡る前の橋のたもとに、宇治十帖のモニュメントがある。匂宮と浮舟が朝霧橋を背に、仲睦まじく寄り添っている像である。
源氏物語は五十四帖からなり、最後の十帖は光源氏の息子「薫」や孫の「匂宮」と、宇治に住む源氏の弟である八の宮の三姉妹(大君、中の君、浮船)との実らぬ恋の物語りで、四十五帖の「橋姫」から五十四帖の「夢の浮橋」までの十帖を特に「宇治十帖」と呼ぶのである。
源氏物語は実話ではないのだが、何時の頃からか物語の地を宇治川周辺に思い浮かべ、夫々の巻についての地が此処だったであろうと、宇治十帖の古跡が創られたのである。
四十五帖「橋姫」から始まり「椎本」「総角」「早蕨」「宿木」「東尾」「浮船」「蜻蛉」「手習」と続き、五十四帖の「夢浮橋」で終る宇治十帖。

02銅像(2)mid
源氏の弟八の宮は二人の娘とともに宇治に隠棲し、仏道三昧の生活を送る。
自らの出生に悩む薫は八の宮の生きかたを理想としてしばしば邸を訪れるうちに、長女大君に深く心を引かれるようになる。
都に戻って薫が宇治の有様を語ると、匂宮もこれに興味をそそられるのであった。(四十五帖「橋姫」)
「しめやかに こころの濡れぬ 川霧の 立ちまふ家は あはれなるかな」(与謝野晶子)

春、匂宮は宇治に立寄り、中の君と歌の贈答をする。
秋、八の宮が薨去すると、二人の姫君たちは薫に托された。
薫は中の君と匂宮を結ばせようとし、自らはを大君に想いを告げるが返答はつれない。
しかし薫の慕情はいっそうつのる。(四十六帖「椎本」)
「朝の月 涙のごとく ましろけれ 御寺の鐘の 水渡る時」(与謝野晶子)

薫は再び大君に語らうが想いはとげられず、むしろ大君は中の君と薫の結婚を望む。
秋の終わり、大君が図って中の君と薫をひとつ間にとり残すが、薫は彼女に手をふれようとしない。
薫は匂宮と中の君を結婚させるが、匂宮の訪れはとだえがちで、これを恨んだ大君は病に臥し、やがて薫の腕のなかではかなくなる。(四十七帖「總角」)
「心をば 火の思ひもて 焼かましと 願ひき身をば 煙にぞする」(与謝野晶子)

翌年、大君の喪があけて中の君は匂宮のもとに引取られる。
薫は後見として彼女のために尽くすが、それがかえって匂宮に疑われる始末であった。(四十八帖「早蕨」)
「早蕨の 歌を法師す 君に似ず よき言葉をば 知らぬめでたさ」(与謝野晶子)

03朝霧橋(1)mid
匂宮と六の君(夕霧の娘)が結婚し、懐妊中の中の君は行末を不安に思う。
それを慰めるうちに彼女に恋情を抱きはじめた薫に中の君は当惑するが、無事男子を出産して安定した地位を得る。
一方で薫は、今上帝の皇女・女二宮と結婚するが傷心は癒されない。
そんな時に、大君に生写しの浮舟を見て、心を動かされるのだった。(四十九帖「宿木」)
「あふけなく 大御むすめを いにしへの 人に似よとも 思ひけるかな」(与謝野晶子)

浮舟は母の再婚により受領の娘として育てられ、父親の財力のために求婚者は多い。
しかし母親は高貴の男性との婚姻を望んで、彼女を中の君のもとに預ける。
母の意中は薫にあったが、ある夜、匂宮が強引に契りを結ぼうとしたため浮舟を引取り、宇治に移す。(五十帖「東屋」)
「ありし世の 霧来て袖を 濡らしけり わりなけれども 宇治近づけば」(与謝野晶子)

浮舟への執心やまぬ匂宮は、薫を装って宇治に赴いて強引に浮舟との関係を結んでしまう。
やがて浮舟も宮を憎からず思うようになるが、一方、薫は彼女を京に移そうとし、匂宮も自らのもとに彼女を連れ去ろうと計画をする。
結果、匂宮と浮舟の関係は薫の知る所となり、浮舟は二人の男のあいだで懊悩する。(五十一帖「浮舟」)
「何よりも  危きものと  かねて見し   小舟の上に  自らをおく」(与謝野晶子)

04朝霧橋(2)mid
浮舟が行方不明になり、後に残された女房たちは入水自殺を計ったと悟って嘆き悲しみながらも、真相を隠すために急遽葬儀を行う。
薫もこのことを知って悲嘆にくれる。
夏になって、薫は新たに妻の姉女一宮に心引かれるものを感じるのであった。(五十二帖「蜻蛉」)
「ひと時は 目に見しものを かげろふの あるかなきかを 知らぬはかなき」(与謝野晶子)

ところが浮舟は死んでおらず、横川の僧都によって助けられていた。
浮舟は、自らの名をあかさないまま、入道の志を僧都に告げ髪を下ろす。
やがて、明石中宮の加持僧である僧都が浮舟のことを彼女に語ったため、このことが薫の知るところとなる。(五十三帖「手習」)
「ほど近き 法の御山をたのみたる 女郎花かと 見ゆるなりけれ」(与謝野晶子)

それを知った薫は横川に赴き、浮舟に対面を求めるが僧都に断られ、浮舟の弟小君に還俗を求める手紙を託す。
しかし浮舟は一切を拒んで仏道に専心することのみを思い、返事すらもない。
薫は浮舟に心を残しつつ横川を去るのであった。(五十四帖「夢の浮橋」)
「明けくれに 昔こひしき こころもて 生くる世もはた ゆめのうきはし」(与謝野晶子)

こんな物語なら浮舟の隣は薫君だと思うのだが、何故かこのモニュメントの浮舟の隣は匂宮なのである。

あらすじは、【Wikipedia源氏物語あらすじ】を参照
源氏物語を訳した、与謝野晶子の短歌

朝霧橋(宇治市)
京都駅から
▼JR奈良線で「宇治」(所要時間18~28分)下車
「宇治」から、徒歩15分